山歩き中の遭難対策あれこれ
他人事ではない山での遭難
丹沢の山の中を歩いていて「この人を見かけませんでしたか?」という探し人の貼り紙が立木にあるのを何度か見たことがある。そのいずれにも行方不明になった人の年恰好や着ていそうな服装、入山したと思しき日と向かったと思われる場所が書かれていたが、行先や経由地などの明確な計画を知らされていず困惑した家族の心配する様がうかがえるような内容だった。
これは1人で山に入ることが多々ある私にとっても他人事ではない。万が一山中でトラブルに遭って予定通り帰れなくなってしまう可能性は誰にでもある。
初歩的ながら、万一遭難してしまった時に家族にかかる負担を少しでも軽くするためにしていることがある。
必ず登山計画書の作成と提出をする
帰宅予定を過ぎても山から帰れなかった場合、どこに行っていつ戻るのか自宅に残された家族が知らなければ捜索願も出せないので、登山計画書を必ず作って自宅用と提出用と行動中の携帯用に印刷する。
作成はヤマレコのヤマプラ、提出はコンパスか警察署
山と高原地図で登山計画書を作れるヤマプラが便利
ヤマレコのヤマプラは山と高原地図のポイントをポチポチクリックして表示されるコースタイムを確認しながら計画書を作れ、そのままの流れでコンパスから計画書の提出までできる便利さから最近使うことが多いが、この方法で計画書を作った場合提出用の計画書を印刷しないで済むのもよい。
バリエーションルートやクライミング・沢登りなど山と高原地図に載っていないルートの場合(実はこちらの方が遥かに多いが)はワードなどで作りe-mailで提出するが、警察がe-mailでの届け出を受け付けていない場合は印刷して警察署窓口や交番・駐在所に提出するようにして、携帯電話番号や自宅の住所電話番号など個人情報てんこ盛りの登山計画書を野ざらしの登山届ポストに入れることは極力避けるようにしている。
大切なのは家族など身近な人に登山計画を伝えておくこと
一番大事なのは、予定を過ぎても戻らなかった場合速やかに捜索願を出してもらえるように、自分が無事に帰ってくることを親身になって願っている(ハズの!)家族に行先と帰宅予定を残しておくことで、警察に提出しても家族に残しておかないとせっかく作った登山計画書が十分に役割を果たせないと思う。
1人暮らしの場合、職場の友人などに登山計画を伝えておけば、休み明けに出社しなかったときに遭難に気づいてくれるだろう。
捜索願を出すタイミングを家族と取り決める
捜索願を速やかに出してもらうといっても、ちょっとしたトラブルで手間取り下山したときには最終バスが出てしまい携帯電話の圏外に取り残されたなどということもあり得るので、下山予定日の翌日昼の12時まで待ってから捜索願を出すように日頃から家族に伝えてある。
普段私がよく行く丹沢あたりなら、トラブルがあって当日中に下山できなくても翌日の昼過ぎには携帯電話の電波が入るところにたどり着けるはずで、それまでに携帯圏内に入れなければただ事でない状況に陥っていると思うからだ。
jRO(ジロー)に加入
捜索結果にかかわらず発生し、膨らむ捜索費用
万一遭難した場合その捜索はヘリコプターや人力で行われるが、消防や警察など公的機関だけでなく、地元の消防団や山岳会など民間の人手を借りれば当然捜索に協力していただいた人への日当などの費用が発生する。
ヘリコプターも消防や警察は無料だが、民間の航空会社から捜索に出動すれば1分10,000円と言われるチャーター料がかかり、遭難場所が特定できず捜索範囲が広がればその費用は数百万円単位に膨らむことも珍しくなく、捜索の結果生還できなくてもその費用の支払いは残る。
そうした負担を少しでも軽減するために、年額わずか2,000円の負担で遭難時の捜索費用が5,500,000円までカバーされる山岳遭難対策制度のjRO に加入した。
ココヘリに加入
行方不明になってしまうと7年経たないと死亡保険金が受け取れない
jROは捜索費用をカバーする制度だが加入しても捜索の効果が上がるわけではなく、捜索に手を尽くしても発見に至らないこともある。
捜索が功を奏し無事救助されれば結構だが、見つからずじまいで行方不明になってしまうと問題だ。
命を失ってもせめて発見されれば加入している保険から死亡保険金が出たり、返済中の住宅ローンの支払いが免除されることもあるが、行方不明だとすべてが宙ぶらりんで、行方不明になってから7年経過して失踪宣告がされるまで死亡保険金が出ず住宅ローンの支払いも続けなければならない。
そこで、遭難したときに少しでも早く見つけてもらえるようココヘリに加入した。
ココヘリに入ると会員証兼用の発信機が貸与され、万一遭難した場合最大16㎞離れた位置から捜索ヘリが探知することができる電波を発信している会員証を頼りに速やかに遭難場所が特定され、その捜索活動の成功率は今現在100パーセントを誇る。(コンパスの登山計画書作成画面にはココヘリIDの入力欄がある)
それに加えココヘリには山で誤って他人にけがを負わせてしまった場合などに充てられる最大1億円の個人賠償補償と登山用品の破損・盗難補償を最大30,000円まで補償する物品補償も備わっている。
早期発見は救命率の向上や要救助者が負担する捜索費用の削減に寄与するだけでなく、公的機関による捜索活動の効率を上げることにより捜索に投入される税金を抑制する効果もあることから、登山する人は半ば義務としてココヘリに加入するべきではないかとさえ思う。
また、ココヘリに加入している人がjROに入る場合(ココジロ)jROの入会金2,000円が、jROの会員がココヘリに入る場合(ジロココ)はココヘリの入会金3,000円が無料になるタイアップ入会制度があるので、私はジロココでココヘリに入会し、ココヘリIDを印字した紙を自宅の冷蔵庫に貼ってある。
最大限の通信手段を確保
最近知り合いが登山中に滑落し、パーティーを組んでいたメンバーが携帯電話が繋がるところまで移動し救援要請をして救助されたという話を聞いた。
もし単独登山で自分が怪我をしてしまったら携帯電話の圏内まで移動できないかもしれないと思ったが、そういえばもう何十年も前にアマチュア無線の資格を取っていたことを思い出した。
アマチュア無線のハンディ機なら携帯電話の圏外からでもどこかへ連絡を取れる可能性がぐっと高くなるかもしれない。
早速山の中で使うのに良さそうな防水型の無線機を購入し、9月に開局手続きを開始して先週コールサインが届いた。
さて、どこでどのくらい繋がるのか今度山に行くときに持って行って試してみたいと思う。
もちろん一番よいのは、遭難したときのために施したこれらの対策が全く使われず無駄になることだ。