小槍の上でアルペン踊り?

2020年8月2日 天気:晴天 人数:8名(パーティー構成3・3・2)

初めての槍ヶ岳を小槍から登る

昨年は毎回雨に祟られていた北穂滝谷登攀が3年越しで叶った。

今年は年初からの新型コロナ禍と長梅雨で春から初夏にかけて予定していたアルパイン山行が全滅してしまい6月から7月に変更した谷川岳一の倉沢衝立岩中央稜も小川山に転進したので、今回の小槍が今シーズン初のクライミング山行になる。

そして、どこから見ても誰が見ても一目でこれだと判る槍ヶ岳に私はまだ登ったことがないので、今回が初槍ヶ岳ということになる。槍ヶ岳

槍ヶ岳山荘から取り付きへ

ババ平のテン場をまだ夜も明けやらぬ3時過ぎに出発し7時前に槍ヶ岳山荘に到着すると、私たちより少し年齢層が高い4名グループがすでにクライミング装備を身につけ準備を終えようとしていた。

私たちもザックからハーネスなどを取り出しガチャを装着して準備を進めている最中、横にいた3名の若い男性グループから「どこに行かれますか」と声を掛けられ話をしていると、彼らは長野県警の山岳遭難救助隊員で北アルプスを巡視しながら配っているという安全登山を呼びかけるカードをくれたので、お世話にならないように気を付けて行ってきます言い山荘横のヘリポートの先を下り取り付きへと向かう。

小槍取り付きに向かう

ヘリポートの横から下って取り付きに向かう

小槍取り付きへのアプローチはガレ場のトラバースで、ちょっと油断すると足元の石が流れて落石を起こしそうになり、ホールドもスタンスも不安定な上に高度感があるので、今回初めて本チャンに臨むメンバーからは「マジか!」という声が聞こえてきた。小槍取り付きに向かう小槍取り付きの小槍と孫槍の間のコルは2~3人が立てる程度の広さなのでコルの下の広いテラスにザックをデポし、小槍に登った後テラスまで懸垂下降してザックをピックアップしてコルへ登り返して孫槍に向かう算段で先行パーティーが登攀しているのを見ながら準備をするが日が当たらないテラスは寒く、早く日当たりが良いコルに登りたいと思いながら待つ時間は長く感じられた。

コル下のテラスにザックをデポして順番を待つ

コル下のテラスにザックをデポして順番を待つ

小槍登攀

小槍からテラスに戻らずコルの反対側に懸垂下降するとのことでザックを背負ったままコルに登って行った先行パーティーが小槍に向かって離陸するのを待って、私たちもコルに登る。テラスからコルへは階段状でロープ無しでも良さそうだが、念のためロープを使ってビレイをしながら登った。

寒いテラスで待つメンバー

寒いテラスで待つメンバーがうらやましそうにコルを見上げている

小槍登攀先行パーティーの最後の1人が登るのを待って登攀開始、私は8名グループ3・3・2の先頭パーティーでリードのSさんのビレイをしながらルートを確認する。私が見ていたトポ図は直上後トラバースして左のチムニーを登るようになっていて先行パーティーもそのルートを上がって行ったが、Sさんは右のカンテから登るルートをとった。下から見上げると左カンテルートが少し被っているように見えるが、実際に上がってみると手も足も豊富で登りやすかったが、カンテの向こう側が切れ込んでいてその向こうに北鎌尾根が良く見え高度感と眺望ともに抜群だった。

Sさんが登り終えてから先行パーティーがテラスと反対側のコルに懸垂をするためロープが交差するので、先行4名が懸垂を終えるまで少し待ってから私も登攀し、終了点は狭いので小槍頂上にあるオーリングにセルフを取り絶景を楽しみながらみんなが登ってくるのを待った。

後続メンバーをビレイ中のSさん

後続メンバーをビレイ中のSさん

アクシデント発生

小槍の上で景色を楽しんでいる間に後続メンバーが徐々に集まり、狭い山頂でちょっと窮屈ななかで懸垂に備えて自分たちが使ったロープを畳んで背中に背負い、最終パーティーの2人が登ってくるのを待っているとコルの方からガラガラっという落石のような音と人の叫び声が聞こえた。その声の主は最終パーティーをリードしているメンバーの声だったので、落ちた後であんな大きな声は出ないだろうからリードの滑落ではないことは確かだが、そうするとビレイヤーに落石が当たったのだろうか?不安がよぎるがビレイ点から離れてオーリングでセルフを取っている私たちからは下の様子が窺えず不安な時が流れた。ひとまず無事を確認

すると間もなく岩の向こうから青いヘルメットが現れ、最終パーティーのリードが登ってきたのでリードとビレイヤー共に無事だったことがわかり、ひと安心した。

直接見たわけでないのであまり迂闊に触れるのは避けるが、私たちのグループ最終パーティーの見えるところで先行パーティーの1人が滑落し、同じロープを結んでいた後続の人が引き寄せられるように2人とも数メートル落ちたらしく、どちらも命にかかわるような怪我はされていないというので、他人事ながら私たちも胸をなでおろした。

ヘリがやってきた

ヘリがやってきた

さて、しばらくどうしようかと小槍の上で考えたが怪我人が発生したパーティーの近くで浮かれる気もせず、アルペン踊りは中止しヘリが救助作業でホバリングをしたりすると強風で落石の危険もあるので、今回はここで撤退するという結論に至った。

その後も何度かヘリが飛来したが、狭いV字にえぐれたコルに近づくのが困難だったのだろう、怪我をされた方は夕刻槍ヶ岳山荘に収容されたと翌日のニュースで知った。

リベンジを心に決め下山

小槍からテラスの懸垂下降は爽快な空中懸垂になり、初本チャンメンバーにとっては初めての空中懸垂が3,000m級の岩場なんてうらやましい!

この辺りは航空機の空路になっているのか、あっちにもこっちにもヒコーキ雲が見えた。

小槍からの懸垂は爽快な空中懸垂

小槍からの懸垂は爽快な空中懸垂

行きは下りだったトラバースも帰りは登りになるせいか歩き易かった、、、かな?

最後まで気を抜かず慎重に戻る

最後まで気を抜かず慎重に戻る

山荘前で休憩してから下山する間際小槍の方を見ると空にはヒコーキ雲の大きなバツ印、今回は撤退したけれどまたおいでと誘っているように見えた。ヒコーキ雲のバツ印下山開始して間もなく、下の方から登ってくる大きなザックを背負った黄色とオレンジのウエアの3人の姿が目に入る、今朝登山者にカードを配っていた山岳遭難救助隊員が滑落者の救助に出動してきた。私たちが小槍に登るという話を朝していたので、事故の様子とけがの程度を尋ねられたので見たままを話したが、命にかかわるような怪我でないということでホッとした様子がこちらに伝わってきた。

巡回しながら大曲まで下ったところで救助に登り返してきたとのことで、本当に頭が下がる思いがした。

今日の小槍ために昨夜はちょっと酒を控えたが、その分を取り戻すわけでもないが殺生ヒュッテでビールを3本買いザックに詰めてテン場に向かった。