2019年8月2日ー4日 2泊3日 メンバー7名 交通手段:自家用車、タクシー
アプローチ:沢渡駐車場(600円/日)に駐車し、上高地までジャンボタクシー(8,000円)に乗車
天候:1日目 晴れのち雨 2日目 晴天 3日目 晴天 (3日間とも風少なく気温高し)
1日目 上高地から北穂小屋
前泊地沢渡から上高地
8月1日の午後に横浜を車で出た私たちは沢渡のライダーハウスで前泊し、2日早朝釜トンネルが開くのを待ってジャンボタクシーで上高地入りすると、バスターミナルの屋根の下では梅雨明けを待ちわびてやってきた大勢の人たちが、出発準備をしていた。
私たちも登山届を窓口に提出し、支度を整えて出発する。
上高地から横尾山荘
1日目は、上高地から今夜の宿泊地北穂高小屋まで標高差1,600ⅿを一気に登る今日の行動時間は9時間強の予定、この頃あまり山歩きができていない私にとってはいささかタフな行程だ。
バスターミナルを発ち川沿いのルートから河童橋の前を通り、橋の付近で穂高連峰をバックに橋の前で写真を撮ったり思い思いに過ごしているリゾート姿の人たちの間を抜けて歩いていくと、「あんな重そうな荷物を背負ってこれから山に登りに行くんだ。」という声が聞こえてきた。
そう、今回は小屋泊まりではあるがメインの目的が滝谷ドーム登攀ということで、ロープやガチャ類など登攀道具を持ってきているのでそれぞれ16㎏強の荷を負っての道中となる。
普段は前を歩いている人に追いつき譲っていただきながら先を急ぐようにして登る傾向にある我々だが、今日はこの先の長い行程と明日の登攀のために体力を温存したいという気持ちがあり、後から来る人にどんどん道を譲って景色を楽しみながら、あるいは明日の登攀順序のことなどを話しながらのんびりとしたペースで歩いていく。
道路わきの施設の柱前に母ザルに連れられた子ザルの姿があった。
上高地バスターミナル付近は人間のおこぼれを期待して姿を現すのかやたらとサルの数が多く、道の真ん中に悠然と座っているサルを人が避けて歩くなんていうこともザラで、ふてぶてしい姿が小憎らしくさえ見えるが、やはり子ザルは可愛い。
上高地から横尾山荘に至るまで明神館・徳沢園と点在している水場ときれいなトイレで用を済ませながら進み、約3時間で横尾山荘に到着した。
時間にして今日の全行程の3分の1を過ぎたわけだが、上高地からここまでで登った標高は100ⅿあまり、標高差では今日の行程の16分の1しか登っていないことになる!!!
横尾のつり橋を渡るといよいよ本格的な山道に入り、いままでのように好き勝手に水を補給したりトイレに行ったりできなくなるので、周りの人たちもみな入念に支度をしてこの先に備えている。(ように見えた)
よ~く見ると、横尾山荘前で休憩を済ませた人の多くはつり橋を渡らず槍ヶ岳の方に向かっていったが、私たちはつり橋を渡り涸沢を目指した。
横尾山荘から涸沢
つり橋を渡ると道幅が狭く山道らしくなるが、時に階段や木の根の急な段差があるものの傾斜はさぼど急にならず対岸に屏風岩を望みながら横尾谷沿いに緩やかに高度を稼いでいく。
横尾山荘を出てから1時間ほどで着いた本谷橋を渡ると、そこは絶好の休憩ポイントになっていて大勢の人が荷物を降ろして休んでいた。
私たちも橋を渡った先で河原の石に腰掛けて休憩、すぐ上の本谷出合で横尾本谷と涸沢からの雪解け水を集めた冷たい沢の水に浸した手ぬぐいで腕を拭うと一気に汗が引いた。
横尾山荘からここまで1時間で登ってきた標高は170ⅿ弱で涸沢まで残りの2時間であと500ⅿ以上登る計算になる、4時間かけたウォーミングアップを終えてここから本当の登山開始だ。
河原での休憩を終えた登り始めから急登が始まり、皮肉なことにいちばんの急登地帯を登っているときに日がよく当たっていて、急登がひと段落すると日蔭に入った。
日陰に入っても照り返しで暑く、少しでも涼しくしようと沢で水に浸した手ぬぐいを首筋に当てながら登っていると、ところどころ山の斜面の石の隙間から冷たい風が吹き出しているところがあり、その前を通る時はまさしく一服の清涼剤を得たようだった。雪渓の下を通った風が山中の空洞を吹き抜けて出てくるのだろうか?
涸沢に向かう途中横切る幅の広いガレ場はどこも「落石注意!立ち止まるな」と日本語と英語で書かれた看板が立てられていたが、足場が平らで広くなっているせいかどのガレ場にも座り込んで休んでいる人がいて、危なっかしくもあり通行の邪魔だと思ったが、周囲を睥睨しながら平然と座っているので私を含め誰もが無言で前を通り過ぎて行った。
涸沢ヒュッテの吹き流しが見え始めたところで午前中最後の1本を取って登り始め、30~40分したところでヒュッテ下の雪渓を横断して間もなく涸沢ヒュッテに到着、ここで涸沢カールのパノラマビューを楽しみながら昼食を交えた大休止としたが、涸沢泊の人たちがデッキでおでんをつまみながら生ビールを飲んでいるのがうらやましかった。
涸沢から北穂小屋
昼食休憩を済ませると、涸沢から北穂高岳に向かって北穂南稜を辿る最後の登りが待っている。
上高地から涸沢まではなだらかな林道歩きとちょっとした山道で体力的にもさほど消耗するようなルートではなかったが、急登続きの南稜は途中から急な岩稜歩きになり、そしてなによりも遮る樹木が一切ないので終始直射日光にさらされての登りになる。
前回来た時はもっと気温が低いうえ天候が悪くガスがかかっていて、時折日が射すくらいだったので暑さを感じることはなかった(その代わり夜から大雨になり、翌日下山の憂き目に遭った)が、今回は天候が良いのは有り難いが気温も高く熱中症にかかりやしないかという不安も感じ、日よけ代わりに濡らした手ぬぐいを襟元を隠すように垂らした上からキャップを被って南稜を登り始めた。
今日は北穂の小屋に着くだけ、早く着いても酒を飲む時間が増えるだけなので明日以降の行程を考えてゆっくり登ろうと皆で申し合わせてはいても、暑さから逃れたい気持ちもあり気が早ってもどかしいが、だんだん遠くなる涸沢のテント群と目線に近づいてくる前穂北尾根を見ると、いつの間にか稼いでいる高度を感じられた。
涸沢から2時間ほど登ったあたりで私たちの目前を横切って飛んで行った救援ヘリが涸沢岳の稜線直下で短時間ホバリングしたかと思うとすぐに戻っていき、入れ替わりに別のヘリが飛んできてしばらくホバリングしていてその間誰かを救助している様子は見えなかったが、ヘリが飛んでくる前稜線付近から叫び声が聞こえたので見ると稜線に大勢の人が立ち止まり斜面の方を見下ろしていて、2機目のヘリが飛び去る直前乗務員がホイストのフックを格納している様子が窺えた。
登りながら一連の救助作業を見ていて、目標の位置でピタッとホバリングさせる高度な技術とひとつ間違えたらローターが斜面にぶつかりかねないリスクを伴いながら、命がけで行われている人命救助に本当に頭が下がる思いがした。
強い日差しの中登り続けること3時間、エアリアのコースタイムではもう北穂高岳に着いてもよいころだが暑さのあまり頻繁に休憩を取りながら登っているためまだ頂上は遥か先だったが、これまで時折雲に隠れる程度だった太陽が湧いてきたガスに遮られて少し涼しく、歩き易くなってきたと思ったら30分もすると雨粒がポツリ。
はじめのうちはキャップのつばを伝った汗が足元に落ちたのかと思っていたが、先を歩いているCLが雨が降ってきたから雨具を着ようと言ったので汗ではないと知りザックから雨具を出すため立ち止まった、と思う間もなくポツポツ落ちてきた雨粒があっという間に土砂降りになり、小屋まであと少しというところで雨具を身に着けているうちに全身ずぶ濡れになっていた。
これまでさんざん強い日差しに耐えながら登ってきたのに頂上直前で土砂降りに遭ったが、雷雨でなくて幸いだった。北穂高岳頂上の山名標は撮り忘れたが明日登る滝谷ドームを写真に収めて北穂高小屋に駆け込むと、受付は後でいいからと乾燥室へ通された。
まだ2~3人分しか干していない乾燥室の好きなところに雨具とアウターやザックカバーを掛けたが、この日の北穂高小屋は定員の倍以上の宿泊者が投宿したとのことで、夜中に荷物を確認に行くと乾燥室の中には歩くのが困難なほど沢山の濡れた衣類が干してあった。
そんな混雑の中、私たち7人は幸いにも5人部屋をひとつあてがわれたので見ず知らずの人と雑魚寝せずに済んだが、夜中に目を覚ましてトイレに行こうとしたら通路の真ん中に布団が敷いてあって危うく寝ている人を踏みそうになったほどこの日の北穂高小屋は混雑していた。
2日目 北穂高岳から穂高山荘
まずは滝谷ドーム
2日目の予定は滝谷ドーム中央稜を登攀してから穂高岳山荘に投宿する予定、北穂高小屋からは2時間強の距離だが、前日CLがリサーチしたところによると同日にドームを登攀するパーティーが少なくとも3グループ、1グループ何パーティーになるか不明だが、ドーム登攀で時間がかかると昨日のような夕立に遭いかねないので極力早く出発するために朝食を最初のグループで摂り、出発を急ぐことにした。
朝食を済ませ小屋から出ると、昨夜遅くまで降っていた雨は上がり前回来た時には雨で見えなかった槍ヶ岳がくっきりと見えている。
この天候が午後まで持つことを願いながら小屋を後にし、北穂山頂を越えて涸沢岳へ向かって進み一旦縦走路から滝谷ドームの上部に上がりクライミング装備を装着してザックをデポしてから縦走路に戻り、最初のクサリ場を下ったところから一般登山道を逸れてドームを回り込んで取り付きを目指し、今回のメインディッシュである滝谷ドーム中央稜登攀に向かった。(滝谷ドーム登攀の記録はこちら)
ドームから穂高岳山荘
初めての滝谷ドーム中央稜登攀を無事に終え、ドームの頭から下ってデポした荷物を回収しヘルメットとハーネス以外の装備を解除して早速穂高山岳荘へと向かう。
朝の天気予報では昼過ぎから松本市内の天気が崩れるとのことだったが、この山域に詳しいTさんによると常念岳方面に雲がかかっていなければ天候の崩れはないとのことで、見渡す限りは天候が崩れそうな気配はない。
ドーム取り付きへ向かった時に通ったクサリ場を再び下り、涸沢岳へと向かう。
歩きながら昨日ヘリがいたのはどの辺だろうかと気をつけて見たがどこも同じような岩場でよくわからない。それにしてもこの岩稜歩きは一般登山道とはいえ、高度感のあるトラバースや不安定な岩が連続していて緊張を強いられるルートだ。
丹沢の大倉尾根を登れればどこの山でも通用するなんていう無責任なことを豪語する人がいるが、体力だけならどうにかなるかも知れないが、そんな言葉を真に受けノコノコやって来たら足がすくんで動けなくなる人もいるかも知れない。なんていうことを考えながら歩いていたら、昨日南稜を登っているときに誰かが明日は稜線歩きだからこんな登りはもう無いと言っていたのに意外と急登急降下が多いのに気づき、そのことを指摘するとA女史に一言「楽しいでしょ?」といなされ思わず納得してしまった。
「最低のコル」と書かれた標識を通過、おそらく“下衆な”という意味ではなく、北穂と奥穂の間で一番標高が低いという意味だろう。(当たり前か)まぁ、これからも下ってからの登り返しはあるだろうけれど、あそこまで下ることはないのだろうな、と思いながら歩いていく。
スラブ壁は見た目には簡単に見えても取り付いてみると意外と傾斜が急で難しかったりするが、遠くから見るスラブは結構立って見えても近づくと意外と緩やかだったりする。という全く逆のこともよくある。
下りながら見る登り返しは信じがたいほど急で長く見え、あんなの登れるか!と思いながら鞍部から取り付くと意外とあっさり登り終えてしまうことほとんどで今回も想像していたよりも少し早く涸沢岳の頂上に着き、そこでは大勢の人が休憩していて、中には穂高岳山荘からワインボトルとスマホだけを持って来て景色を楽しんでいる人もいた。
真夏とはいえ標高3,000ⅿ近くとは思えないほどの暖かさの中、穂高岳山荘前の広場では皆さん思い思いに寛いでいてさながら天空のビアガーデン状態になっている。
山荘に到着した私たちもチェックイン手続きをする一方でさっそくスペースを確保するや売店に走ってビールを調達し夕食前に祝杯を上げた。
ひとしきり飲んでから宿泊室に入ると昨夜の北穂高小屋以上の混み具合になり、布団の割当は2人に1枚ずつで毛布は1人1枚ずつだったが、かねてからの暑さで使われない毛布がカイコ棚から蹴り出されて通路に転がっている状態だった。
暑さに耐えかね目が覚め、水を飲みに出たついでに玄関から外へ出てみると、深夜にも関わらず外は寒くもなくしばらく満天の星空を楽しんでから床に就いた。
3日目 穂高岳山荘から上高地への下山
下山とはいえ6時間超の行動時間に備え、前夜目が覚めた時に500㏄のペットボトルに加えプラディバスに2ℓ弱の水を補充しておいた。
朝食を最初のグループで済ませるために4時起きしようと打ち合わせたが、暑さのせいもあり目覚ましが鳴るまでもなく全員目を覚ましていたが、皆寝足りなそうな顔をしていた。
皆で朝食を摂った後、各自準備を済ませて5時20分に山荘前に集合して出発ということになり、山荘を出ると目の前を朝日が昇りはじめていて、今日も天気は良さそうだ。
それにしても朝食後の腹ごなしにしては奥穂に向かう山荘前の急登はイキナリ感が半端ではない!!!
穂高岳山荘から紀美子平
山荘横の階段から急登に取り付いて登ること約40分でたどり着いた奥穂高岳山頂にある祠にはインスタ映えする1ショットを狙う若者が群れていた。
奥穂の山頂を過ぎて吊尾根に入るとこれまで胸突き八丁で足元ばかり見ていた状態から、一気に左右の視界が開いて絶景を楽しみながら紀美子平へ向かった。
道が開けて日当たりが良い紀美子平では大勢の人が休憩していて、私たちも空いている所を見つけ荷物を下ろして休憩したが、せっかくなので荷物を置いて前穂高岳の山頂まで往復してくることにした。
もう何度も来てるから下で休んでいるという2人に荷物を託して頂上に向かって歩く、荷物がないってこんなに軽く歩けるのか、、、と感心するほど軽い足取りで頂上まで登れた。
前穂の山頂は360度のパノラマビューでいつまで見ていても見飽きないが、日当たりとはいえ風が強い中待っている2人が寒がっているといけないのでパノラマ鑑賞を程々に切り上げ下に降りた。
紀美子平から岳沢小屋
紀美子平から岳沢小屋への下りは、下れど下れど稜線上から見えていた岳沢小屋がなかなか近づいてこなくてもどかしいが、小屋の赤い屋根から目を離して周りの景色に目を遣ると、今まで目の高さにあった稜線は頭上になり、確実に下っていることが判る。
岩稜帯を下り樹林帯の九十九折に差し掛かり樹間を下っているときに先頭のメンバーの脚が止まり、数メートル先の木の枝に向かってカメラを構えてるので見ると、枝にはホシガラスが留まっていて私たちが近くにいるのに気にもせず悠然と羽繕いをしていたが、やがて遠くから聞こえる仲間の鳴き声に誘われるかのように飛び去った。
穂高岳山荘を出て初めての山小屋の水場で冷たい水を補給し、長めの休憩をとった。
岳沢小屋から上高地
岳沢小屋までとは打って変わって緩やかになった登山道を下ること約1時間、エアリアに天然クーラーと書かれた風穴からは想像を超える冷たい風が吹き出していて寒いほどだった。
この辺りまで来ると登山というよりも、服もシューズもピクニックというような感じで登ってくる家族連れの姿が目に着くようになり、石段状の段差を数えながら駆け上がる子供もいた。
やがて山道の傾斜が緩くなり、開けた林間になったかと思うと行く手に広を道が横断しているのが見え、岳沢湿原へと出た。
散策しているリゾートを楽しむ人たちに混じって湿原の木道を歩いていると、前の方の人が次々と2本あるうちのもう一方の木道に飛び移っている、そして私の前の人が飛び移ると目の前を大きなサルがのしのしと歩いてきたので、私も反対側の木道へ飛び移った。
河童橋で穂高連峰をバックに写真を撮っている人たちに混じって私も写真を撮ってみると、まるでどこかで売っている絵葉書のように撮れていた。
今回歩いたコース
コースタイム
1日目 上高地バスターミナル5:20-6:10明神館6:18-7:11徳澤園―8:25横尾山荘-9:25本谷橋―11:20涸沢ヒュッテ11:50-15:55北穂高小屋
2日目 北穂高小屋5:00-滝谷ドーム中央稜登攀―14:34涸沢岳―15:00穂高山荘
3日目 穂高山荘5:20-6:00奥穂高岳8:07-7:24紀美子平7:33-7:59前穂高岳8:07-8:33紀美子平―10:30岳沢小屋10:52-11:47風穴天然クーラー11:58-12:47上高地バスターミナル