山下町の思い出 1

私に転職経験はないが、勤務先は約10年毎に移転していて今の事務所は4箇所目の勤務地になる。

最初の勤務地は山下公園の近くで観光地のど真ん中のような立地だった。毎年5月の連休辺りから観光客で周辺が混みだし秋の連休が終わるくらいまでその混雑が続くので仕事をするには落ち着かない所だったが、仕事帰りに飲む場所には事欠かず、横浜中華街にもほど近かったので昼食にも困らなかった。普段の昼食には中華街本通りの店は値が張り観光客で混んでいるので避け、人通りの少ない関帝廟通りの店を端から順番に入ったこともあった。今はその通りにも観光客向けの雑貨店や占いができて休日ともなると人がごった返す賑わいで、当時あった喫茶店なども観光客相手の土産物屋や占いの店に変わってしまい、昔の面影はもうない。

その頃特によく昼食に行っていたのは、桜木町から新山下埠頭へ続く通称コンテナ街道沿いに並んでいた二軒の店だった。一軒はアスターホテルという古びたホテルの一階にある福禄寿という名前の中華レストランで、黒いベストを着たどことなく陰気で慇懃無礼な感じを漂わせた小太りの支配人然とした男の人が仕切っていて、配膳係の女性もみなどこかぶっきらぼうな感じがしたが通い慣れると独特の居心地の良さがあった。ここの名物メニューはチャーハンの上に青椒肉絲がかけられたルースーチャーハンで、並盛りでも量が多目なのに大盛りは直径30cmはある大皿にてんこ盛りのチャーハンがよそられ、急いで食べないとその上にたっぷり乗った青椒肉絲が皿から溢れ出しそうな盛りの良さで食べ盛りの食欲を大いに満たしてくれた。

もう一軒はアスターホテルの並びにあった一軒家で夜は中国家庭料理をうたった中華レストラン、昼時は洋食を提供しているロンシンという店だった。ここは、ご主人がテーラーを営んでいて入り口から入ると背広をまとった人台の前にソファーが置かれたテーラーの店内を通り抜けて食堂に入って行くという一風変わった作りで、昼時になると当時山下町にあったテレビ神奈川の社員で賑わっていた。ここの名物は醤油ベースのチャーハンにハムエッグが載せられたものでメニューにはハムエッグライスと書かれていたが、私達は醤油味と呼んでいて注文をするときにもそれで通じていた。醤油味以外にもカツカレーやジンジャーライスをよく食べたが、カレーは日によりルーがトロトロだったりサラサラだったりしていたがどちらも味は良かった。ジンジャーライスはライスが皿に盛られた生姜焼き定食だが、生姜焼きの肉は厚さが1cm以上あり食べ応え充分だった。

私の職場が山下町を離れてから久しぶりにロンシンに行ったらメニューからジンジャーライスが消えていたので女将さんに尋ねると、生姜焼き用の肉はブロック肉を仕入れて切り出していたそうだが、私達の事務所が移転して間もなくテレビ神奈川も関内に移り客足が減ってしまいブロック肉を仕入れるほど出なくなったので止めてしまったそうだ。

今はアスターホテルがあった場所にはマンションが建ち、ロンシンはビルに建て替えられてテーラーロンシンは健在だが、レストランは廃業してしまっている。

休みの日に家でブラブラしているときなど、今でも時々無性に醤油味が食べたくなることがあり、そんなときは照宝で買った中華鍋を取り出し記憶を辿り醤油味を作って食べると当時のことが手に取るように思い出される。

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